大矢明彦 ベイスターズの真実




大矢明彦



大矢明彦 ベイスターズの真実


矢島裕紀彦 小学館文庫



1998年の横浜ベイスターズ。
ここ何年かのプロ野球優勝チームで最も好感度が高いチームといっていいだろう。

90年代のセ・リーグはFA・逆指名ドラフトで、圧倒的資金力を背景に戦力増強した巨人と

゛ID野球”というデータ重視、相手の心理を読むという
いささか「暗さ」をともなった野球を推進したヤクルトが

覇を競っていたのだが、横浜ベイスターズはそのどちらとも異なる個性を発揮した。




バントを減らし、ホームランはでなくともヒットをつなげて得点していくマシンガン打線。

絶対的な先発投手がいなくとも、大魔神佐々木主浩へつなぐことだけ考えた投手陣。

とにかく「面白い野球」で結果をだしたチームだった。




1998年の優勝後、権藤博監督の手腕を扱った本が多く出版された。

この本も優勝後にだされたのだが、権藤監督でなく前任の大矢明彦氏に焦点をあてたのだ。

つまり、優勝したその年よりむしろ大きく飛躍し2位につけた97年に注目し、

大矢が監督就任以来、考えたこと、選手に伝えたこと、心がけたことなどを紹介し

「何が弱小球団を変わらせたのか」にせまっていく試みである。




コンバート、レギュラー固定の話から始まり、谷繁育成、
経験の少ない投手をいかす起用法、マシンガン打線誕生の背景と

およそ大矢氏に聞きたかったベイスターズのことはすべて聞いてくれたという内容だ。




矢島裕紀彦氏は、必ずしもスポーツ専門のライターというわけではないようだが、

同じ小学館文庫から他に『掛布雅之 打つ』『山田久志 投げる』を出している。

3冊ともにいえることだが、「野球の奥深さ」を伝える内容なのに決して難しくなりすぎず、

「TV観戦好きなオヤジ」のレベルにおりて、素朴な質問もしてくれているので読みやすい。




なにより、監督本だが「理想の上司」という切り方をせず、野球の話に終始してくれたのがいい。




今読むととりあえず、現状のベイスターズを憂いてしまう。

「あのころはよかった・・・」というふうに。

他球団のファンでも読む価値はあるのでは?

FAや自由枠で手っ取り早く戦力補強できるチームは限られている。

しかし、選手を地道に指導し、力をつけた球団の話を読むのは勇気を与えてくれる。

遠い過去のはなしではないし・・・。

そして、なによりこう思わずにいられない。

「大矢さん。監督復帰してください。」






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